西野そらの日々の事ごと

「書く」ことを暮らしのなかの一つに。日々の些事をどう受け止め、考えたのか。忘れないように。

ご機嫌ですね〜

 午後7時過ぎのデパ地下。時間が時間なので買い物客はせわしなく歩く人が少なくない。生鮮食品には20パーセント引き、30パーセント引きの値下げシールが重ねて貼られてある。シールの貼られた刺身の盛り合わせ、肉のパック、野菜をもとめているあいだに、共にでかけてきた夫はフラフラとどこかへ行ってしまった。

 

 レジの向側にある惣菜売り場を探してまわる。

 夫は期間限定で出店しているピザ屋のまえにいた。

「ピザ、どう?」

夕飯に飲もうとしているワインのつまみにピザを買うかどうかを訊いているのだ。

 ピザ屋のお兄さんは、その夫の声を聞き逃さなかった。

「このガーリックピザ、人気があるんですよ」 

試食用に小さくカットされた一切れのピザを夫に差し出す。

「おいしいよ」と言う夫はわたしの顔を窺いながら目で問いかける。買う?買わない?ピザ屋のお兄さんもわたしの反応を気にしつつ、

「はい、こっちはアンチョビのピザ」

と、わたしに差し出した。差し出しながら、こう続けた。

「いや、おふたかたともおしゃれ。大人のおしゃれっていうか。」

「ははは、そんなこと言われちゃ、買わないわけにはいかないじゃないですかっ」

どう返すのが大人の対応でおべんちゃらなんぞ真に受けてませんよ、と伝わるのか。夫の顔には迷いがみえる。

「ははは、またまたぁ。うまいですね」

わたしたちが曖昧な態度で曖昧にかわしているのに、お兄さんはあれこれとさらにおべんちゃらを言い続け、結局3枚のピザを売ることに成功した。

 まあ、わたしたちとしてはピザが好みの味であったから買ったのだけれど、いい客(カモ?)だったと思われたにちがいない。

 

 地下から駐車場へ向かう途中、夫が言った。

「ご機嫌ですね〜って、返してもよかったね」

 

 少し前夫にお笑いコンビ「オードリー」の若林正恭著『ご本、出しときますね?』(ポプラ社)を薦めた。そのなかにテンションの違う相手とうまく距離をとりたいときに「ご機嫌ですねぇ」という返しはつかえるとあり、「面白いうえにうまいよね」と夫と話したばかりだったのだ。

「今日はご機嫌ですねぇ〜」

なにげない言葉のなかにも隠されたメーッセージがある場合もあるのですな。ウッシッシ。

 

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西野 そら