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西野そらの日々のこと 

「書く」ことを暮らしのなかの一つに。日々の些事をどう受け止め、考えたのか。忘れないように。

小さなハリソン・フォード氏

 日曜日も終わろうとしている午後7時過ぎ。

「ピンポーン」

 インターフォンの画面に映るは宅急便の配達員。

 いつもなら届いた品物を受け取り、サインをしておしまいの配達員とのやりとりが、この日はちがった。

 サインをした伝票を受け取りながら、そのひとはやにわに言った。

「西野さんちは守られてますね」

「……?」

 突然のことで真意がわからない。まじまじと配達員の顔を見る。

 見かけない顔。40代ぐらいだろうか。お兄さんと呼ぶほど若くはないけれど、おじさんというのには憚れる容貌。映画『インディ・ジョーンズ』のハリソン・フォードを小さくしたような不思議な雰囲気のひとだった。

 顔全体で「はてな」と無言の返事をした途端、そのひとは言った。

「玄関の扉にヤモリがいますよ」

「ぎぇっ、ヤモリ?」

「ぎぇっ」にも「ヤモリ?」にも拒絶が混ざっていたのを聞き逃さなかったのにちがいない。

「ヤモリは害虫を食べて家を守ってくれるんですよ」

 ええ、ええ、知っていますとも。わかっちゃいるけどね、ギェッとなるのはしかたがない。いい虫悪い虫分け隔てなく、昆虫も爬虫類も苦手なんだもの。とはいっても、忌み嫌う態度を見破られたことが恥ずかしくて、曖昧に肯定してみせた。

「そうですよね」

「うちにもたまに出るけど、ここのところ少なくなりました」

「ああ、ねえ。この辺りは緑が多いからけっこういるンですよ」

「なるほど。それじゃー、ありがとうございました」  

 

 これまで何度もベランダや玄関横の壁にはりついているヤモリを見ては、慌てふためきなんとかして追いはらってきたのだった。

「西野さんちは守られてますね」

 ヤモリにしたら「守ってやろう」などというつもりではないのだろうけれど、小さなハリソン・フォード氏のように考えられたら、どうしてだろう、感じがいい。

 まあ、苦手な彼奴等と親しくまではなれそうもないが、そろそろ、もうそろそろ、見かけても慌てず騒がず、ましてや追い払うなんてことは差し控えなければなるまいな。

 巨大なわたしに怯えているのは、小さな彼奴等にちがいないのだから。

 

 

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カーペットも部屋履きも夏仕様に。

西野  そら