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西野そらの日々のこと 

「書く」ことを暮らしのなかの一つに。日々の些事をどう受け止め、考えたのか。忘れないように。

日日是好日

 ある日。

 小雨が降るなかコンビニエンスストアの前を通りかかったときだ。

 小学5、6年生と思われる少年が店先で仰向き口を開けていた。雨粒を口にいれているのだ。小雨の頼りない降りだから雨が口の中にはいっているかを確認しているのにちがいない。彼の舌はペロペロ動いている。

 わかる、わかる。

 この衝動はわたしにもあった。中学生になるころまでに1度や2度、空を仰ぎ口を開けたことのある子どもは少なくないはず。

 子どもにとって酸性雨なんぞはその衝動をおさえる理由にはならない。空を仰ぐと水のような雨が落ちてくるのだもの。そりゃあ、自ずと口が開く。飲むのでもなくなめるのでもなく、ともかく口にいれたくなる。

 真剣な面持ちで口を開ける少年を横目に、込み上げてくる笑いを気づかれぬよう彼の横を通り過ぎる。

 ある日。

 陶器市で常滑焼の急須と目が合う。思わず手にとって横から下から眺める。小ぶりで丸みのある急須。グレーと藤色を混ぜたような色合いと注ぎ口の短く細いところが気に入った。なんとも愛嬌があるのに味わいのある佇まい。

 が、値札には予想をはるかに超えた数字が書いてある。吝嗇ゆえ値段の張るものは即決しない。されど、このときばかりは珍しく、さほど迷わずに急須をもとめた。

 持ち帰った急須を娘たちに見せる。くれぐれも慎重に扱うように念を押して、最初のお茶を淹れる。最後の一滴まで淹れて飲む。

 安い茶葉ではあるが、こころなしかおいしい。もう一杯ずつ飲む。

 飲み終わって茶葉を捨てようとしたそのとき。

 陶製の茶漉し部分に茶葉が張り付いている。こういうときは急須本体をトントンと手で叩き茶葉を落とすようにと店の人が教えてくれたことを思い出す。

 トントン、トントン。

 高価であることが思い切りを悪くさせる。なかなか茶葉が落ちない。もう少し力を入れる。トントン。落ちた。要領はわかった。が、

「割っちゃいそうで怖い」

 と、長女。

「だから慎重にね」

 慎重に扱うことも覚えましょう。

 というわけで、一ヶ月。

 取り扱いに慣れてきたところで、注ぎ口が割れたとの申告。割った本人は「ごめんなさい」と慌てている。報告されたこちらもひゃーとなるが、壊れ物ゆえしかたない。

 愛嬌のある注ぎ口は折れるように割れていた。

「金継ぎ、金継ぎ」

 インターネットで金継ぎをしてくれる店を探して見つける。

 金継ぎまで考えが及んだのは初めてだ。値のはる買い物をした欲なのか、智恵なのか。

 一度壊れたものがどんなふうによみがえるのか、再生の楽しみができたような……。

 

 少年に目が止まったり、急須と目があったり。 日日是好日。

 

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日曜日、クリスマスツリーを出しました。

塾から帰宅した中学生は嬉しげ。

クリスマスが大好きなのですって。

西野  そら